杉玉と酒の神様とは?酒蔵の軒先の丸い玉と、三輪の神様の「うまさけ」

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この記事で分かること
酒蔵や酒屋の軒先に吊るされた、杉の葉を丸めた大きな玉。
これを「杉玉(すぎだま)」、または「酒林(さかばやし)」といいます。

この杉玉のルーツとされる奈良の大神神社と酒造りの神様、日本書紀に残る酒の歌、そして杉玉の色が教えてくれるお酒の季節まで、史料と伝承に分けてお話しします。

杉玉と酒の神様を一言でいうと

三輪山の神様が酒造りの神様として敬われ、そのご神木の杉が、酒蔵のしるしとして全国に広まったものです。

大神神社の公式サイトによると、今も全国の酒造業者に、大神神社から「しるしの杉玉」が授与されています。
酒蔵の軒先の杉玉は、三輪の神様とつながっているんです。

杉玉の意味を見てみよう

言葉読み意味
杉玉すぎだま杉の葉(穂先)を集めて丸くしたもの
酒林さかばやし杉玉の別名。酒屋の看板
味酒うまさけおいしいお酒。「三輪」にかかる枕詞
掌酒さかびと神様に捧げるお酒を造る役目の人

日本書紀の中の酒の神様【史料】

高橋活日の歌

日本書紀の崇神天皇の巻には、酒造りの神様にまつわる、とても大切な場面があります。

崇神天皇の八年の夏、天皇は、高橋邑(たかはしのむら)の人・活日(いくひ)を、大神(おおみわのかみ)の掌酒(さかびと)に任じました。
そしてその年の冬十二月、大田田根子に大神をお祀りさせた日のことです。

是日、活日、自舉神酒、獻天皇。仍歌之曰、許能瀰枳破 和餓瀰枳那羅孺 椰磨等那殊 於朋望能農之能 介瀰之瀰枳 伊句臂佐 伊久臂佐
(『日本書紀』巻第五・崇神天皇八年)

読みやすくしてみると、「この日、活日は自ら神酒を捧げて、天皇に献上した。そして歌った。
『この神酒は 我が神酒ならず 倭なす 大物主の 醸みし神酒 幾久 幾久』」。

大神神社の公式サイトでは、この歌を「この神酒はわたしが造った神酒ではありません。倭の国をお造りになった大物主大神が醸されたお酒です。幾世までも久しく栄えませ、栄えませ」と訳しています。

自分が造ったお酒なのに、「私の酒ではありません。神様が醸したお酒です」と歌う。
この謙虚な一言から、大物主神は酒造りの神様として敬われるようになった、と大神神社の公式サイトは説明しています。

「うまさけ三輪」

同じ場面では、宴のあと、家臣たちと天皇が歌を交わしています。

宇磨佐開 瀰和能等能々 阿佐妬珥毛

「うまさけ 三輪の殿の 朝門にも……」。

「宇磨佐開(うまさけ)」は「おいしいお酒」のことで、「三輪」の前に置かれています。
大神神社の公式サイトによると、三輪の枕詞は「味酒(うまさけ)」で、額田王(ぬかたのおおきみ)の歌をはじめ、「味酒の三輪」は万葉集にも詠まれました。
古代の人々にとって、三輪といえば、おいしいお酒だったんですね。

杉玉のはじまり【伝承】

神様が宿る杉

大神神社の公式サイトによると、大神神社のご神木は杉で、古くから神聖なものとされてきました。
三輪山の杉は、万葉集をはじめ多くの歌集に詠まれ、「三輪の神杉」として神聖視されてきたそうです。

そして時代が下ると、酒の神様が宿る杉の枝を、酒屋の看板にする風習が生まれ、軒先に酒ばやし(杉玉)を吊るすようになった、と説明されています。

一休さんと杉玉

大神神社の公式サイトでは、とんち話で有名な一休さん(一休宗純禅師)の、こんな歌が紹介されています。

極楽を いづくのほどと 思ひしに 杉葉立てたる 又六が門

「極楽はどこらへんだろうと思っていたら、杉の葉をしるしに立てた、酒屋の又六の門だった」。

京都の大徳寺の門前にあった「又六」という酒屋で酔えば、そこが極楽。
なんともユーモラスな歌です。
元禄時代の画家・英一蝶(はなぶさいっちょう)の「一休和尚酔臥図」には、杉玉を吊した酒屋の店先で酔いつぶれている一休さんが描かれているそうです(大神神社 公式サイト)。

11月14日の杉玉の取り替え

大神神社では、毎年11月14日に「醸造安全祈願祭(酒まつり)」が行われます。
その前日には、拝殿と祈祷殿に吊るされている大きな杉玉が、青々とした新しいものに取り替えられます(大神神社 公式サイト)。

酒造会社の月桂冠のサイトによると、この日には、新酒の仕込みの季節を迎え、全国の酒造家や杜氏たちが醸造の安全を祈りにやって来るそうです。

杉玉の色が教えてくれること【伝承】

酒造会社の沢の鶴のサイトなどによると、杉玉は、新酒ができる2月から3月ごろに飾られ始めます。
吊るしたばかりの杉玉は、青々とした緑色です。
それが季節とともに、少しずつ色を変えていきます。

杉玉の色時期お酒の季節
緑色2月〜6月ごろ新酒の季節
薄い緑色初夏〜夏ごろ夏酒の季節
茶色秋ごろひやおろしの季節

※ 酒蔵によって、飾る時期や考え方はちがいます。

つまり、緑の杉玉は「今年も新酒ができましたよ」という知らせ。
茶色の杉玉は、お酒がじっくり熟してきたしるしなんです。
酒蔵の前を通ったら、杉玉の色を見て、お酒の季節を感じてみてください。

酒の神様をお祀りする神社

月桂冠のサイトによると、大神神社、松尾大社、梅宮大社は、特に酒造家から尊崇される酒の神様として知られています。
毎年11月初旬には新酒の仕込みを前に醸造安全を祈り、4月には醸造完了のお礼参りが行われるそうです。

大神神社(奈良県桜井市)

月桂冠のサイトでは、大神神社の大物主大神と少彦名神を「酒の二大神」と紹介しています。
毎年11月14日に醸造安全祈願祭が行われ、大きな杉玉が新しく取り替えられます。

松尾大社(京都市西京区)

月桂冠のサイトによると、大宝元年(701年)に秦氏によって創建されたとされる京都最古の神社で、第一の御祭神は大山咋神(おおやまくいのかみ)です。
古事記では、大山咋神は大年神の子で、「葛野の松尾にいらっしゃる」神様と書かれています。
秦氏に酒造りの技能者が多かったことから、室町時代の末ごろから酒造りの神様として信仰されるようになったそうです。
11月上の卯の日に醸造祈願の「上卯祭」、4月中の酉の日に醸造完了感謝の「中酉祭」が行われます。

京都府観光連盟のページによると、境内の「亀の井」は松尾山のふもとの神水で、社伝では亀は松尾の神様のお使いとされています。
酒造家のあいだでは、亀の井の水を酒造りの元水に加えると、お酒が腐らないという言い伝えがあるそうです【伝承】。

梅宮大社(京都市右京区)

月桂冠のサイトによると、酒解神(さけとけのかみ)・酒解子(さけとけのみこ)を主神とする、酒の神様をお祀りする神社です。
本殿のそばには「またげ石」と呼ばれる二つの丸い石があり、またぐと子宝に恵まれるという言い伝えもあるそうです【伝承】。

古神道的な視点での読み解き

神様と同じものをいただく

神社のお祭りでは、神様にお酒(神酒・みき)をお供えし、お祭りのあとに、そのお酒をみんなでいただきます。
これを「直会(なおらい)」といいます。
神様と同じものをいただくことで、神様の力を分けていただき、心を通わせる。
お酒は、神様と人とをつなぐ、大切なものだったんです。

崇神天皇の八年の場面でも、活日が神酒を献上したあと、神宮で宴が開かれ、宴が終わると、神宮の門を開いて天皇がお出ましになった、と日本書紀は書いています。
お祭りと宴は、ひとつながりのものだったんですね。

まこも考察

ここからはまこもの考察です。

杉玉について調べていて、僕がいちばん心に残ったのは、高橋活日の「この神酒は我が神酒ならず」という一言です。

一夜で美酒を醸した、腕のいい造り手。
それなのに、「これは私の酒ではありません。大物主の神様が醸したお酒です」と歌った。

お酒は、米と水と、目に見えない麹や酵母の働きでできあがります。
人ががんばって手をかけても、最後においしいお酒になるかどうかは、人の力だけでは決まらない。
活日は、そのことをよく知っていたのだと思います。
だから、自分の手柄にしないで、神様に感謝した。

今も、酒蔵の人たちは、杉玉を吊るし、三輪の神様に醸造の安全を祈ります。
千年以上も前の、造り手の謙虚な一言が、今も酒蔵の軒先で、杉玉という形で生き続けている。
そう思うと、あの茶色い丸い玉が、急にいとおしく見えてきます。

ちなみに僕はお酒にあまり強くないので、杉玉の色が茶色になるころには、たいてい一杯目でもう顔が赤くなっています。

杉玉と酒の神様が登場する作品

英一蝶「一休和尚酔臥図」

大神神社の公式サイトによると、元禄時代の画家・英一蝶の「一休和尚酔臥図」には、杉玉を吊した酒屋の店先で、酔って寝そべっている一休和尚が描かれています。
一休さんの「極楽を いづくのほどと 思ひしに」の歌が、この絵の下敷きになっているのだろう、と紹介されています。
室町時代のとんち坊主と、元禄の絵師と、三輪の神杉。
杉玉は、時代をこえて、たくさんの人を楽しませてきたんですね。

まとめ

  • 杉玉(酒林)は、杉の葉を丸めた酒蔵のしるしで、そのルーツは大神神社の神杉と酒造りの神様にあるとされています。
  • 日本書紀には、掌酒の高橋活日が「この神酒は我が神酒ならず 倭なす大物主の醸みし神酒」と歌った場面があり、これが大物主神が酒の神様とされる由来です。
  • 三輪の枕詞は味酒(うまさけ)で、古代から三輪はおいしいお酒の地として知られていました。
  • 杉玉は、緑色なら新酒の季節、茶色なら秋のひやおろしの季節など、色でお酒の季節を教えてくれます。
  • 大神神社・松尾大社・梅宮大社は、特に酒造家から尊崇される酒の神様として知られています。

「私の酒ではありません、神様のお酒です」。
その謙虚な心が、今も酒蔵の軒先の杉玉として、静かに受け継がれているんですよね。

よくある質問(FAQ)

Q. 杉玉は、なぜ杉でできているのですか?
A. 酒造りの神様をお祀りする大神神社のご神木が杉で、神様が宿る杉の枝を酒屋の看板にする風習が生まれたからだと、大神神社の公式サイトで説明されています。

Q. 杉玉の色は、なぜ変わるのですか?
A. 吊るしたばかりの杉の葉は緑色ですが、時間がたつと枯れて茶色くなります。そのため、緑色は新酒の季節、茶色は秋ごろの熟したお酒の季節を表すといわれています。

Q. 酒の神様をお祀りする神社はどこですか?
A. 奈良県の大神神社、京都市の松尾大社と梅宮大社が、特に酒造家から尊崇される酒の神様として知られています。

Q. 「うまさけ三輪」とは、どういう意味ですか?
A. 「うまさけ(味酒)」は、おいしいお酒のことで、「三輪」の前に置かれる枕詞です。日本書紀や万葉集にも見られ、三輪がおいしいお酒の地として知られていたことを表しています。

この記事は、古事記・日本書紀などの原典や、ネット上の資料を参考にまとめ、まこもが考察を加えたものです。考察の部分は「まこも考察」として書き分けています。

出典・参考文献

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