この記事で分かること
「講(こう)」という言葉を聞いたことはありますか?
富士講、伊勢講、三峯講、庚申講。
江戸時代の人たちは、こうした「講」をつくって、遠くの神社やお寺へのお参りを実現していました。
みんなでお金を出し合い、代表者がお参りする「代参(だいさん)」のしくみと、その歴史をお話しします。
講を一言でいうと
同じ神様や仏様を信仰する人たちが集まってつくる、「信仰のグループ」です。
今でいえば、みんなで積み立てをして旅行に行く会や、地域のサークルに近いかもしれません。
ただしその中心には、いつも神様や仏様への信仰がありました。
「講」という言葉のはじまり
「講」は、もともとお寺でお経を講じる(読んで研究する)僧たちの集まりを指す言葉でした。
平安時代に、貴族たちがお金を出して、法華経を講じる「法華八講」などの仏教行事をさかんに行うようになります。
それがしだいに、信仰のための集まりそのものを「講」と呼ぶようになっていきました。
やがて中世ごろから、講は民間に広がり、さまざまな信仰の集まりに「講」という名前がつけられるようになりました。
いろいろな講
講には、大きく分けて二つの種類があります。
地域でお祀りする講
村の中で、決まった日に集まって神様や仏様をお祀りする講です。
- 庚申講:60日に一度の庚申の夜、眠らずに過ごす集まり(庚申信仰の記事)
- 日待講・月待講:日の出や月の出を待って拝む集まり
- 山の神講・田の神講:山や田んぼの神様をお祀りする集まり
遠くの寺社にお参りする講
遠くの有名な神社や山へお参りするための講です。
- 伊勢講:伊勢の神宮へお参りする講(お伊勢参りの記事)
- 富士講:富士山に登拝する講(富士塚の記事)
- 三峯講:秩父の三峯神社へお参りし、お犬様のお札を受ける講
- 御嶽講:武蔵御嶽神社や木曽の御嶽山へお参りする講
代参のしくみ
みんなでお金を出して、代表者が行く
遠くの寺社へお参りするのは、昔はとても大変なことでした。
何日もかけて歩き、宿代や食事代もかかります。
村の全員が行くのは、とても無理です。
そこで生まれたのが代参講(だいさんこう)です。
- 講のメンバーが、毎月少しずつお金を積み立てる
- その年の代表者を、くじや順番で決める
- 代表者が、みんなのお金で寺社へお参りする
- 代表者は、みんなの分のお札をいただいて帰り、配る
こうすれば、何年かに一度は自分の番が回ってきます。
自分が行かない年も、代表者が持ち帰ったお札で、家を守っていただくことができました。
講の役目
講には、次のような役目の人がいました。
- 講元(こうもと):講のまとめ役
- 世話人:講の運営を手伝う人
- 先達(せんだつ):お参りの道案内や、作法を教える人。とくに山の講では大切な役目
三峯講とお犬様【伝承】
三峯神社の博物館の案内によると、お犬様は、山里では猪や鹿よけ、町や村では火防・盗賊よけの霊験があると語られました。
信州・甲州、関東の村や町、それに江戸の町人たちが、その霊験を信じて講社をつくり、三峯山に登拝しました。
三峯神社の博物館では、講の人たちの登拝や参籠(さんろう。寺社にこもってお祈りすること)に関する資料を展示しています。
- 江戸からの三峯登拝の道を名所案内のようにまとめた『三峰山詣』(天保6年)
- 諸国代参帳
- 饗応記録帳
- 講社登拝記録
- 講の人たちが山の上で泊まったとき、飲みくらべに使った「東海道五十三次蒔絵盃」
などが紹介されています(三峯神社 公式サイト)。
代参のたびに記録をつけ、山の上で泊まって、ときにはお酒の飲みくらべもする。
信仰の旅は、仲間との楽しい旅でもあったんですね。
三峯講でお犬様のお札を受けた場合は、家に帰るとすぐ仮宮にお祀りし、注連縄を張ってお供えをした、と伝える資料もあるそうです。
今も続く講
講は、昔の話だけではありません。
寳登山神社の公式サイトでは、「講社・崇敬団体結成のお勧め」として、地域・親族・職場の仲間などで講社をつくり、毎年ご祈願をいただくことをすすめています。
三峯神社や武蔵御嶽神社にも、今も各地から講社の人たちがお参りに来ています。
三峯神社の境内にある祖霊社には、各地の三峯講社の関係者や講元、世話人の御霊もお祀りされているそうです。
講から生まれた「頼母子講」
代参講のしくみから、お金を融通し合う頼母子講(たのもしこう)や無尽講(むじんこう)も生まれました。
みんなでお金を積み立てて、くじや入札で順番にお金を受け取る、というしくみです。
信仰のために始まった「みんなで出し合う」しくみが、暮らしを助け合うしくみにも広がっていったんですね。
古神道的な読み解き
神様を「持ち帰る」
代参でいちばん大切なのは、お札を持ち帰ることです。
遠くの山の神様の力を、お札という形で村に迎え、それぞれの家でお祀りする。
代参講は、神様と村をつなぐ「橋わたし」の役目をしていたんです。
信仰が人と人をつなぐ
講の集まりでは、お参りの相談だけでなく、食事をしたり、おしゃべりをしたりすることも大切にされました。
信仰を中心に、人と人がつながり、助け合う。
講は、地域のきずなを育てる場所でもありました。
まこも考察
ここからはまこもの考察です。
講のしくみを知って、僕がいいなと思ったのは、「自分が行けなくても、ちゃんとお参りに参加している」という感覚です。
代表者は、自分のためだけにお参りするのではありません。
村のみんなの願いを背負って、長い道を歩きます。
そして村に残った人たちは、代表者の無事を祈りながら、お札が届くのを待ちます。
行く人も、待つ人も、同じお参りの一部なんです。
今は、行きたい場所に一人でも気軽に行ける時代です。
でも、誰かの願いを預かって旅をしたり、誰かが持ち帰ってくれたものを大切に受け取ったりする。
そんな「分かち合うお参り」には、今の時代にも通じるあたたかさがあると思います。
ちなみに僕も、友だちに旅行のお土産を頼まれると責任を感じて、自分の分を買い忘れることがよくあります。
講が登場する作品・モデルになった作品
上方落語『東の旅』
伊勢参りの旅を描いた上方落語です。
くわしくはお伊勢参りの記事で紹介しています。
まとめ
- 講は、同じ神様や仏様を信仰する人たちの集まりです。
- 遠くの寺社へお参りするために、みんなでお金を積み立てて、代表者がお参りする「代参講」が生まれました。
- 代表者は、みんなの分のお札を持ち帰って配りました。
- 三峯神社の博物館には、三峯講の登拝の記録や『三峰山詣』などが展示されています。
- 講のしくみから、お金を融通し合う頼母子講・無尽講も生まれました。
- 講は今も、講社として各地の神社で続いています。
行く人も、待つ人も、同じお参りの仲間。
講は、信仰を通して人と人をつなぐ、江戸の人たちの知恵でした。
よくある質問(FAQ)
Q. 講とは何ですか?
A. 同じ神様や仏様を信仰する人たちがつくる集まりです。地域で神様をお祀りする講と、遠くの寺社へお参りする講があります。
Q. 代参とは何ですか?
A. 講のメンバーがお金を出し合い、代表者がみんなに代わってお参りすることです。代表者はみんなの分のお札を持ち帰ります。
Q. 三峯講とは何ですか?
A. 秩父の三峯神社へお参りし、お犬様のお札を受けるための講です。江戸や関東、信州・甲州などにつくられました。
Q. 講は今もありますか?
A. はい。講社として、三峯神社や寳登山神社などに今も各地からお参りしています。
この記事は、古事記・日本書紀などの原典や、ネット上の資料を参考にまとめ、まこもが考察を加えたものです。考察の部分は「まこも考察」として書き分けています。
出典・参考文献
- 三峯神社 公式サイト「三峰山博物館」 https://www.mitsuminejinja.or.jp/hakubutsukan/
- 寳登山神社 公式サイト「ご参拝・ご祈願」 https://www.hodosan-jinja.or.jp/kigan/
- ウィキペディア「講」
- ウィキペディア「三峯神社」(祖霊社・御眷属拝借心得書)


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