この記事で分かること
熱田神宮には、暗闇の中で神職たちが「オホホ」と笑う、ちょっと不思議な神事があります。
実は日本には、神様の前でみんなで大笑いする神事が、いくつも伝わっているんです。
各地の笑う神事と、その始まりともいえる天岩戸の神話を、史料と伝承に分けてお話しします。
笑う神事を一言でいうと
笑うことで神様を喜ばせ、悪いものを祓い、新しい年や実りを呼びこむお祭りです。
神社というと、静かにお参りする場所というイメージがありますよね。
でも、神様の前で思いきり笑うことも、昔から大切な祈りの形だったんです。
すべての始まり?天岩戸の笑い【史料】
八百万の神々がいっせいに笑った
天照大御神が天岩戸にこもり、世界が真っ暗になったとき、神々は岩戸の前で祭りを行いました。
古事記では、天宇受売命(あめのうずめのみこと)が神がかりして踊ると、こうなります。
爾高天原動而、八百萬神共咲。
読みやすくしてみると、「すると高天原がどよめいて、八百万の神々がいっせいに笑った」。
「咲」という字は、ここでは「わらう」と読みます。
花が咲くように、顔がほころぶ。
古代の人にとって、笑いと花が咲くことは、とても近いものだったのかもしれません。
笑い声が光を呼んだ
外の笑い声を不思議に思った天照大御神は、岩戸を少し開けて、「私がこもって暗いはずなのに、なぜ天宇受売命は踊り、神々はみな笑っているのか」と尋ねます。
そこから物語が動き出し、天照大御神は岩戸の外へ出て、世界に光が戻りました。
暗闇の中で響いた笑い声が、太陽を呼び戻した。
笑う神事の多くが、この天岩戸の場面とどこかでつながっているように思えます。
天岩戸の物語は、天岩戸の記事で紹介しています。
全国の笑う神事
熱田神宮の酔笑人神事(愛知県名古屋市)5月4日
「オホホ祭り」とも呼ばれる神事です。
和楽webの紹介によると、毎年5月4日の夜、境内の明かりがすべて消された暗闇の中で、神職たちが影向間社・神楽殿前・別宮八剣宮前・清雪門前の4か所をめぐります。
面を持つ神職が扇で面を軽くたたいて「オホ」と声を出すと、笛の音に合わせて全員がいっせいに「オホホ」と笑い出します。
この神事は、朱鳥元年(686年)に草薙神剣が熱田に戻ってきたとき、人々が喜んだ様子を伝えるものとされています。
草薙神剣が盗まれ、熱田に戻るまでの話は、熱田神宮の記事で紹介しています。
枚岡神社の注連縄掛神事(大阪府東大阪市)12月23日
大阪観光局の紹介によると、毎年12月23日に、新しいしめ縄に掛け替えて大勢で笑う神事で、「お笑い神事」と呼ばれています。
祭典の紹介サイトによると、宮司が「アッハッハ」と大きな声で笑うと、参列者もそれに続き、そのあとみんなで20分ほど笑い続けます。
天岩戸の神話で活躍した、枚岡神社の御祭神・天児屋根命(あめのこやねのみこと)の働きを再現したもので、日の短い冬至のころに、笑いで太陽を呼ぶ神事だと紹介されています。
東大阪市の無形民俗文化財にもなっています。
小俣八幡宮の笑い講(山口県防府市)12月第1日曜日
山口県の観光サイトによると、防府市大道の小俣地区で、鎌倉時代から続くといわれる神事です。
紋付袴姿の講員たちが榊を手に持ち、「ワーハッハッハ」と三度笑います。
一年の豊作に感謝し、来年の豊作を願い、そして一年の苦しみや悲しみを笑って忘れる、という意味があるそうです。
丹生神社の笑い祭(和歌山県日高川町)10月
和歌山県の無形民俗文化財になっている「笑い祭」です。
公式の情報ではありませんが、旅行情報サイトによると、毎年10月に行われます。
白塗りに八の字眉という道化の化粧をした「鈴振り」が、「笑え、笑え」と声をかけながら町を練り歩き、神輿を先導します。
笑いで邪気を祓い、五穀豊穣を願うお祭りです。
地元では、神様が出雲の神々の集まりに寝坊して遅れ、落ちこんでいたのを、村人たちが笑わせてなぐさめたのが始まり、という話も伝わっています【伝承】(諸説あり)。
くらべてみると
| 神事 | 場所 | 時期 | 笑い方 |
|---|---|---|---|
| 酔笑人神事 | 熱田神宮(名古屋市) | 5月4日の夜 | 暗闇で「オホホ」 |
| 注連縄掛神事 | 枚岡神社(東大阪市) | 12月23日 | 「アッハッハ」と20分ほど |
| 笑い講 | 小俣八幡宮(防府市) | 12月第1日曜日 | 「ワーハッハッハ」と三度 |
| 笑い祭 | 丹生神社(日高川町) | 10月 | 「笑え、笑え」と練り歩く |
古神道的な読み解き
笑いは「祓い」
笑う神事に共通しているのは、笑いが悪いものを祓い、よいものを呼びこむと考えられていることです。
大きな声で笑うと、気持ちが晴れて、体の中の重たいものが外に出ていくような気がしますよね。
昔の人は、その感覚を「祓い」として、神様の前で表したのだと考えられます。
冬至と太陽
枚岡神社のお笑い神事は、冬至のころに行われます。
一年でいちばん日が短くなる時期に、笑いで太陽の力をよみがえらせる。
これは、天岩戸の神話そのものの再現だと言えます。
まこも考察
ここからはまこもの考察です。
笑う神事を調べていて、僕がいちばん心をひかれたのは、熱田神宮の酔笑人神事が「暗闇の中」で行われることです。
明かりをすべて消して、何も見えない中で、みんなで笑う。
それは、天照大御神が岩戸にこもって真っ暗になった世界で、八百万の神々がいっせいに笑った場面と、ぴったり重なります。
暗いときこそ、笑う。
つらいときこそ、声を出して笑ってみる。
笑う神事は、千年以上前から日本人が知っていた「暗闇から抜け出す方法」を、お祭りの形で伝えているのかもしれません。
ちなみに僕は、笑い講の「一年の苦しみを笑って忘れる」というところに強く共感したので、今年の失敗も今のうちに笑っておこうと思います。
笑う神事が登場する作品
公式の情報で確認できた作品がなかったため、ここでは紹介を控えます。
まとめ
- 古事記の天岩戸の場面では、八百万の神々がいっせいに笑い、その声が天照大御神を岩戸の外へ導きました。
- 熱田神宮の酔笑人神事は、草薙神剣が熱田に戻った喜びを、暗闇の中の「オホホ」という笑いで伝えています。
- 枚岡神社のお笑い神事、小俣八幡宮の笑い講、丹生神社の笑い祭など、全国に笑う神事があります。
- 笑いには、悪いものを祓い、よいものを呼びこむ力があると考えられてきました。
暗闇の中で響いた神々の笑い声は、今も日本各地の神社で受け継がれています。
よくある質問(FAQ)
Q. 酔笑人神事は見学できますか?
A. 見学の方法や注意事項は年によって変わることがあるので、熱田神宮の公式情報を確認してください。
Q. なぜ神様の前で笑うのですか?
A. 笑いには悪いものを祓い、よいものを呼びこむ力があると考えられてきたからです。天岩戸の神話で、神々の笑いが太陽を呼び戻したことともつながっています。
この記事は、古事記・日本書紀などの原典や、ネット上の資料を参考にまとめ、まこもが考察を加えたものです。考察の部分は「まこも考察」として書き分けています。
出典・参考文献
- 『古事記』上巻(天岩戸)
- 和楽web(酔笑人神事) https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/199393/
- 大阪観光局「枚岡神社」 https://osaka-info.jp/spot/hiraokajinja/
- オマツリジャパン「注連縄掛神事(お笑い神事)」 https://ohmatsuri.com/en/articles/osaka-shimekake-shinji-at-hiraoka-shrine-laughter-ritual
- おいでませ山口へ「笑い講」 https://yamaguchi-tourism.jp/event/detail_14766.html
- 日本旅行(丹生神社の笑い祭) https://www.nta.co.jp/kokunai/special/eventinfo/10634677.htm
- 和歌山県 文化財目録 https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/500700/mokuroku/d00155461.html

コメント